第七話 掛け糸の話


掛け糸とはこはぜを掛ける為に縫い付けてある糸です。
糸とは言っても普通はタ凧糸の太さが在ります。
大量生産の足袋の場合、"掛け通し機"と言う特殊な機械でこの凧糸の太さの糸をミシンで縫いつけてあったり、もう少し手が込んでいると、糸をグシ縫いに縫いこんで、その上をミシンで押さえる止め方で押さえています。
当店の足袋は8番のミシン糸を4本撚りに撚って凧糸の太さを作ります。
これを、手付けで縫って行きます。 当店の足袋をお買い上げに為った時に糸の縫い方をよくご覧になって下さい。
糸があっちに行ったり、こっちに来たりして、掛け糸が動かない様に付いています。
この縫い方の欠点は、生地を寄せてしまう為、掛け糸部分がシワに為った様に見える事です。
特にお洗濯後に生地が縮む為、余計シワに為った様に見える事です。
では、何でこんな方法を使うのでしょう?
この掛け糸は足袋を履く場合、相当の力がかかります。
一本の糸が表地と裏地を一緒に縫い付けた時に、ミシンで縫い付けた時より遥かに強くなります。
高級足袋は表地もかなり丈夫です。
この生地がボロボロに為るまで、糸が切れてはいけないのです。
ちなみに、当店の掛け糸の幅は五ミリに為っています。
あえて、五ミリにこだわっているのは、外側の糸にこはぜを掛けても内側の掛け糸が見えないように作っているからです。
この幅が広いほど、足首の融通が利いて万人向きになるのです。
大量生産の足袋は、掛け糸でも、なるべく多くの人に履けるように、又、安くする為の努力で合理的に作られています。
見えない個所にこだわりを込めて、特定の人の為に作られているのがこだわりの品であり、むさしやの足袋もその一つと自負しています。